この頃思うこと

小野 清美

めったに連絡をよこさない娘から電話がくると「なにごと?」と思う。元来人前で弱みを見せない明るい子なので、大体のことは自分で何とか消化しているようだ。帰りの遅い私に三度目の電話が来た。何かあるな、と思いつつ娘が言い出すのをたわいのない話をつないで待つ。
昨日夜勤だった娘の担当の患者さんが、手術を終え元気に整形外科病棟に戻った。娘と少し話をし、娘の前で、さあ、寝ましょう、と何かに手を伸ばした瞬間、がくっとくずれるようになり、容体が急変した。すぐにICUで治療が始まった。血栓が胸に飛んでしまった。一命はとりとめたものの、娘は血の気が引いた状態が続いた。
「私に防げなかったのか。私に足りなかったことは何か。何を見過ごしていたのか。」
娘は自分を問い詰めた。何か自分に気づきがあれば防げたことだったように思えて仕方ない。考えて考えて、電話してきたらしい。
さらに不運なことに、担当の患者さんでベッドから落ちないように注意が必要だったおじいちゃんが、この緊急事態で目を配れなかったため、ベッドから落下してしまった。大事には至らなかったが、娘にはダブルパンチだ。
悪いことが重なることは往々にしてあるもの、最悪の結果を招かなかったことを喜びなさい、あなた1人で招いた結果じゃない、早く気づいてあげられてよかったじゃない、なぐさめにならないこんな慰めに、少しほっとした娘は涙声になっていた。

この4月、看護師3年目に入った娘にここまで考えさせる医療体制は、何か欠けていると思わざるを得ない。翌日、元看護学の先生をしていた人にこの状況を話してみた。すると、血栓の対策は手術室で行うべきこと、娘さんに落ち度はないと思うと言っていただいた。母としてもほっとした。このことをすぐに娘に話したが、娘は「近いうちにお祓いしてくるね」と答えただけだった。

人の命を預かるってこういうことなんだと思う。この気持を忘れないでいて欲しい。やりがいという大きな手応えは危険と隣り合わせ。めげずに頑張って欲しいと心から思った。

この4月、あまほろさんが亡くなった。講演していただいた時から9年の月日が流れた。あまほろさんにお願いした講演はずっしり心に残った。人の為に何かをする、それも当たり前に。凄い人だと思った。一番大切なものは何かを体で知っていた人だった。翌年は私達の佐渡旅行を喜んで迎え入れてくれた。あまほろさんからいただいたメールを読み返してみた。なつかしい。

小野さん

あまほろです。
先日は楽しく有意義な時間を多くの方と共有できましたこと心より感謝致します。
どんな展開になるかちょっと不安もありましたが、皆さんの真剣な視線に勇気付けられました。

ホームレス問題はまだ皆さん見過ごしていますが、近い将来大きな問題として浮かび上がってくるでしょう。

本当に貴重な体験をさせていただきありがとうございました。

こちらではようやく田植えも全部終わりつかの間の休憩です。
昨夜は「宵の舞」という佐渡おけさのイベントに行ってきました。はじめてみる踊りは緩やかで力強く感動しました。
今夜は「薪能」を見に行きます。

来月はまた新宿に出ます。
またお会いしたいですねえ。

ようやくネットが家から出来ますので、また近況報告させていただきます。

私のパソコンの中に、すでに亡くなった人からのメールがいくつも残っている。その時々で私に影響を与えてくれた人たち。たくさんの肥やしを撒いてくれた人たち。成長がなさすぎるぞ、私。