切捨てられる福祉障害福祉サービス(ホームヘルプ、施設、訓練など)の利用者負担について他

「障害者自立支援法」との闘い
古  賀  典  夫

「障害者自立支援法」は、財源を別にすれば、介護保険法とよく似ている。1割の応益負担、6段階の程度区分、支給認定の仕組み、試算調査の仕組みなど、かなりの部分を介護保険から持ってきている。
厚生労働省はもともと「障害者」を介護保険制度の中に組み込もうとしてきており、04年にその
方向を決定しようとしていた。しかし、「障害者」側の反対と、財界の反対にあってこれができなか
った。そこで、「支援法」のもととなった「改革のグランドデザイン」を04年10月に発表した。
他方、小泉政権の基本方針を作ってきた「経済財政諮問会議」は、政府の補助・負担金廃止の最大の対象を社会保障、社会福祉関係としてきた。こうした中で作られてきたのが「支援法」である。「障害者」とその家族から「応益負担」として多くの費用を取り立て、福祉は減らそうというのがその狙
いである。
この4月から「支援法」が施行され、応益負担1割の利用料徴収が始まった。それに伴って、ホー
ムヘルプ利用を止めたり、減らす人、施設利用を止める人たちが出てきている。「支援法」成立以前
から、前途を悲観して「障害者」を巻き込む心中が起こっていたが(05年8月広島など)、今年に
入って心中が増えている。その数は通常の3・4倍とも言われる。
3月11日に福岡で起こった心中事件では、「支援法」によって追い詰められた母と娘の姿が報道
されている。母親は、27歳の娘の首をしめて殺し、自ら腹を刺し手首を切った。娘は、20歳の時
に脳血管の病気で「障害者」になった。「支援法」の施行が近づくと、母親は周囲に「費用をこの先
ずっと払い続けることができるだろうか」と度々漏らしていたという。2月末に、娘が利用していた
二カ所の福祉施設への通所をやめ、在宅支援センターとの契約も打ち切っていた。

経済的負担はますますこれからのしかかる。
これから、「障害程度区分」認定とそれに基づく介助を始めとするサービス支給量の決定が市町村
で行われ、10月からは実際に支給が開始される。この段階で、これまでホームヘルプを利用してき
た人が「非該当」とされたり、介助時間が減らされたりということが起こるだろう。あるいは、介助
などの福祉を提供する事業所そのものが、報酬単価の引き下げによって、持ちこたえられるかどうか、という状況さえ起こってくる。

この段階で判ってきた問題点をお話しし、「支援法」、介護保険、医療制度の改悪を始めとする福祉切り捨て・社会保障制度の破壊に対して、わたしたちがどうしていくのかを共に考えあいたいと思います。

★1「支援法」でどのような福祉切捨てが行われるか

[1]応益負担

応益負担は、利用料を抑制するために効果を発揮する。
介護保険の介助の支給では、家族の介助なしに地域生活は成り立たない。「要介護程度区分」5の人でも、ホームヘルプだけなら1日4時間、訪問看護などを加えると1日2時間半程度しか介助は保障されない。その支給水準さえ、高齢者は自分の使える基準の半分程度しか使っていない。それが応益負担のもたらす効果だ。
昨年10月から、「特別養護老人ホーム」などでの利用料が増額され、特養にいられなくなる高齢
者が出ている。

(1)「支援法」での応益負担

1割の負担も、収入による徴収の上限も介護保険と同じ額とされている。

●利用料徴収の上限はあってなきがごとし

次の5種類は、別々に費用徴収が行われるため、それぞれに設けられた徴収の上限は突破される。
・介護給付、及び、訓練等給付(障害福祉サービス)
・自立支援医療
・補そう具
・通所施設の食費
・地域生活支援事業、これは市区町村が徴収基準を決める。

この内、全部を利用する人がどのくらいいるのか判らないが、この内4つぐらいを使う人はかなり
いるのではないだろうか。

●「障害福祉サービス」(ホームヘルプ、施設、訓練など)の利用者負担について
・生活保護世帯の方なら、0円
・市町村民税非課税世帯で障害基礎年金2級(月6.6万円)のみ受給の方なら、15,000円
・市町村民税非課税世帯の方なら、24,600円
・市町村民税課税世帯の方なら、37,200円(与党の働きかけにより、3000円減額された)

利用料は毎月取られる金額。
これまでの支援費制度では、応能負担で、住民税非課税世帯は利用料はなしであり、住民税の最低税率である市町村民税均等割りの場合は1100円だった。以下にひどい値上げか。

(試算として、厚生労働省から出されている数字を使って、障害基礎年金1級(1ヶ月8万3千円)
の人が2万4600円を取られた場合の生活費を考えてみる。
8万3千円から2万4600円をひくと5万8400円。
通所施設の食材料費が230円とされているので、230円かける3回かける30日で2万700
円。
入所施設の1ヶ月の光熱水費が1万円とされている。

この食事関係費用だけひいても残りは、2万7700円。しかし、一人暮らしの場合、食費は23
0円ではすまないし、光熱水費もより多くかかる場合が多いだろう。
入所施設では、2万5千円を「その他生活費」として、「被服・履物、家具・家事用品、保健医療、
交通・通信、教育、教育娯楽費、その他支出である」としている。当然これらは在宅でも必要な費用
であるが、こうした費用を支出すると、家賃を支払うことなどできない。
手当て金も家賃に回しても払いきれるかどうか。

したがって、この上限そのものが高額すぎるのであって、これ以上取ることなど許されないはずで
ある。
ちなみに、在宅での介助として「日常生活支援」(脳性麻痺など「全身性障害者」が対象)を1日
5時間使えば、利用料1割は2万4600円を超える。
しかし、補そう具(車椅子など)を手に入れたり、修理すれば、これとは別に、先ほど述べた上限
と同じ金額を徴収できることになっている。
「自立支援医療」を受ければ、住民税非課税世帯は、2500円、5000円が取られる。
通所施設の食費は、新たに取られるようになるが、非課税世帯は食材料費のみだが、5100円が
取られる。課税世帯なら、1万4300円が取られる。
さらに市町村が行う「地域生活支援事業」については、市町村それぞれが利用料を決めて徴収することになる。

「支援法」では、外出の移動介助を、一部の人を除いて、ホームヘルプから切り離して、「地域生
活支援事業」に入れた。その結果、ホームヘルプと移動介助を利用すると別々の名目で利用料の徴収が行われる。
「障害程度区分」は、補そう具を使うと低くなる可能性が高い。例えば、電動車椅子を使って移動
することができれば「移動できる」と判定される。そうなれば、より低い区分となり、支給される介
助の水準も低くなる。
このように相互に関係のあるものについて、別々に利用料を徴収することが許せない。

2)応益負担のイデオロギー

福祉は保障すべきものではなく、個々人が買うものとするのがこの応益負担の発想。

●参議院での昨年10月13日の福島みずほ議員と厚労省の中村援護局長のやりとり

・福島:「中村局長は、サービスは買うものだと、みんな買う主体になる、やはり利用者の方もシェ
アできる範囲でコストをシェアしていただく、それが新しい福祉の考え方ではないかと答弁をさ
れています。
買う主体になる、これが新しい福祉の考え方で障害者自立支援法案の根幹を成すものである
と。・・・みんなが買う主体になる、障害者もサービスを買う主体になる、この基本的な考え方
には様々な根本的な問題があります。サービス、そしてサービスを買う、買うわけですよね。
それでお聞きしたい。参考人から意見が出ました。トイレに行くのも益でしょうか、御飯を食
べるのも益でしょうか、学校に行くのも益でしょうか、作業所に通うのも益でしょうか、子供、
障害のある子供を学校にやることも益でしょうか、電話をすることも益でしょうか、駅に行くこ
とも益でしょうか、全部益でしょうか。」

・中村:「何といいますか、今言われた行為、行為であることは間違いありませんし、便益であると
いうこと、あるいは日常生活の必須の行為であると、そういうことであろうかと思います。」

・福島:「日常生活に必須のこと、買う主体になるということはお金がなければ駄目です。日常的に
必須のことをお金がなければ買えない。問題じゃないですか。」

・中村:「一般に、私どももそうですが、日常生活で必須なこと、電気やガスや水道や交通や、そう
いったことについて、生活のもろもろの費用については購入せざるを得ないと、そういう世界の
中で生きているということであり、そういった意味では、何といいますか、様々な財とサービス
に囲まれてやっており、基本的にはそういう財とサービスというのは購入されていると、そうい
うことでございます。」

国会でのやり取り、わたしたちとの交渉の席で、厚労省側から「障害者」の状況についての分析がほとんど出てこない。ただ介護保険などと同じ水準にすることのみが語られる。これは、いったん保障するという発想を捨てた結果である。
財務省などからは、介護保険制度での利用料を2割3割にすべきとの発言が出ている。いったん保障することを捨てれば、このように応益負担の率も上げていくことになる。医療制度改悪関連法が成立すれば、高齢者の医療費窓口負担は、2割3割になるが、次には、介護保険や「障害者」関係にも波及させられることになる。
そこでは、利用者がどうなろうとかまわないということになる。

国会の論議で、利用料の徴収が増えるのに、所得保障はしないのか、という議論があった。政府側はこれに対して、「就労支援などで対応する」という方針を貫いている。
「重度の障害者」ほど多くの介助利用が必要であり、その分多くの利用料が支払わされる。しかし、
就労はよりいっそうこんなんである。
政府の態度は「働けない者などどうなってもかまわない」としか言いようがない。

[2]介助などの給付はどうなるか

(1)「障害程度区分」の認定について

介助や施設などの利用を希望すると、「障害程度区分」の認定を受けなければならない。
1次判定では、調査員がそれぞれの対象者に106項目に渡る調査、本人の住まいや家族の状況や希望など調べ(概況調査)、医師意見書も取り寄せ、コンピューター判定を行う。
さらに、1次調査の際に集めた資料をもとに、「介護給付費等の支給に関する審査会」が2次判定
を行う。
この2次判定の結果を踏まえ、市町村は利用希望者の「障害程度区分」を認定する。
希望者はこの認定に不服がある場合には、都道府県知事に不服審査を申し立てることができる。
「障害程度区分」が認定されると、次には申請者の利用意向を市区町村が聴取して、「障害福祉サービス」の支給決定を行う。
この支給決定は、市区町村がそれぞれに設ける支給基準に基づいて決定される。
しかし、現実的には、国庫負担の水準になっていくだろう。
この支給基準からかけ離れた決定を行う場合は、市町村審査会に要否決定について、市町村は意見を求める。
支給決定に不服がある希望者は、都道府県知事に申し立てを行うことができる。

厚労省は、全国共通の106項目の調査を行うことをもって、「客観的な基準」となるとしている。
果たしてそうだろうか?わたしの父は、介護保険での支給を受けているが、要介護2でしばらく受
けた後に、要介護1と判定され、これに意義を唱えて改めて判定した結果要介護3になるという経験
をした。既に、5年以上の実績を踏まえた介護保険の「要介護程度区分」もこの状態である。
介護保険の全国共通の調査項目とコンピューター判定という方法は、アメリカのナーシングホーム
の介助報酬を計算する方法をもってきたものである。介護保険が先に導入されたドイツなどではこう
した方法は使われていなかった。
しかし、介護保険では当初から重度の人が軽い判定になったり、「認知症」の人は軽い判定になっ
てしまうなどの問題が指摘されてきた。改良は行われたようだが、「認知症」の人が軽くなってしま
う実態は変わっていない。
法律の成立から施行まで、介護保険は3年、「支援法」は6ヶ月だ。介護保険以上の混乱が出ても不思議はない。そのためか、介護保険は2次判定=区分の決定だが、「支援法」では市町村が認定するという形をとっている。また、介護保険は区分の決定は、そのまま利用限度額の決定だが、「支援法」では市町村が支給決定を行うことにしている。

「障害程度区分」は、介護保険と共通の79項目で、まず判定し、さらに、新たに加えられた「問
題行動」、日常生活に必須の行動(IADLと言い、食事関連、入浴、掃除、買い物、交通機関の利用
などの項目がある)、精神面の項目などを使って、補正する形をとっている。
このため、介護保険と共通の79項目で、高い判定が出ないと、結局低い区分にしかならない。
「知的障害者」の施設関係者からの指摘で明らかになってきたことは、新たに加えられた「問題行
動」関連では、「非該当」から「区分1」になることしかできないこと。IADLは、区分を1段階か
2段階上げることしかできないこと、などである。
厚労省は、これまでホームヘルプ系を利用していた人の内「非該当」とされる人が出ることを前提
としている。試行事業では、ホームヘルプを使っている人の3.6%の人が「非該当」とされた。
厚労省は、「地域生活支援事業」の中に、「生活サポート事業」を作り、「非該当」とされた人には、
その事業で市町村がヘルパーなどを派遣するように考えているという。しかし、この事業は市町村の
必須事業ではなく、補助金算定の対象でもない。

そもそも、わたしには79項目で判定される「区分基準時間」なるものが全く理解できない。厚労
省に尋ねても、理解できる応えが返ってこない。
省令によれば、区分1(介護保険の要支援に当たる)は、25分以上32分未満。
区分2は、32分以上50分未満。
区分3は、50分以上70分未満。
区分4は、70分以上90分未満。
区分5は、90分以上110分未満。
区分6は、110分以上
そして、省令の案の段階でこの時間について次のような注記が記されていた。
「障害程度区分認定基準時間は、1日当たりの介護、家事援助、行動援護等の支援に要する時間を
一定の方法により推計したもの。これは障害程度区分判定のために設定された基準時間であり、実際
の介護サービスに要している、ないしは、要すると見込まれる時間とは一致しない。」
では何か、電話で質問すると、「嚥下ができなければ3.1分、飲水ができなければ14分」などと
いう応えが返ってくる。ではいったいこの3.1分などは何をする時間なのか聴いてみると、応えが返
ってこない。
施設で、直接介助のための時間を多数例で図ったとも言うが、どうしてこういう時間が出てくるの
か、やはり判らない。どなたかご存知の方がいらしたら、教えていただきたい。
誰にとっても判るものでなければ「透明で客観的な基準」とはならないはずだ。

(2)介護保険以下のホームヘルプ国庫負担水準

国庫負担の基準となる額が3月1日の主管課長会議で示された。
その内、「訪問系サービス」の額は次のようになる。
なお、ここで示す数字は、「事業費ベース」と言われるもので、実際の国庫負担は、この45~50%である。これは、1ヶ月当たりの額。なお、ここでは円で記したが、厚労省は、約10円を1単位と
する単位で示している(東京特別区だと1単位が10.75円となる)。

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・居宅介護
区分1:2万2900円(介護保険の要支援利用限度額の約37%、支援費国庫補助金「一般の障
害者」の33%)
区分2:2万9100円(介護保険の用介護1の約17.55%、「一般の障害者」の約42%)
区分3:4万3100円(要介護2の約22%、「一般の障害者」の約62%)
区分4:8万1100円(要介護3の約30%)
区分5:12万9400円(要介護4の約42%)
区分6:18万6800円(要介護5の約52%)
障害児:7万2800円

・重度訪問介護
区分4:19万200円(要介護3の約71%、支援費国庫補助基準の「全身性障害者」の約87.67%)
区分5:23万8500円(要介護4の約78%)
区分6:29万5900円(要介護5の82.58%)

・行動援護
区分3:10万7800円(要介護2の約55%、支援費国庫補助のガイドヘルプを伴う「特有の
ニーズを持つ者」とほぼ等しい)
区分4:14万5800円(要介護3の約54.5%)
区分5:19万4100円(要介護4の約63%)
区分6:25万1500円(要介護5の約70%)
障害児(18歳以下):13万7500円

・重度障害者等包括支援
45,5000円(要介護6の約127%)
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●国庫負担基準でどの程度の介助時間が使えるか

ここでの計算はかなり大まかなものである。実際には、利用者がどの時間帯に介助を利用するかなどで報酬単価が変わってくるから。夜間と(午後6時から10時)と早朝(午前6時から8時)は2
5%増し、深夜(午後10時から翌朝6時)は50%増しになる。したがって、こうした時間帯に介
助を使えば、時間数としては少なくなってしまう。

・居宅介護区分1
家事援助のみで利用すれば、1にち1時間半の利用として、
2万2900円割る2250円=約10回
となる。1週間に2度程度の利用である。
身体介護が加わるとはるかに少ない時間になってしまうことは確か。

・居宅介護で区分3
身体介護だけで計算すると、入浴を1時間とすると
4万3100円割4000円=10回強となる。3日に1回程度しか入れないし、これでは家事が成
り立たない。

・区分4の重度訪問対象者
これでは、移動を使った場合には報酬単価に加算が加わるので、移動を使う都それだけ介助時間
は短くなる。
単純に国庫負担基準19万200円を加算のない1時間1600円で割った場合は、119時間弱
となり、現在の125時間を下回ることになる。

・区分6の重度訪問対象者
この場合は、報酬単価は7.5%増しとなり、1時間当たりに直すと1720円となる。29万590
0円の国庫負担基準をこれで割ると172時間程度となる。1日5時間30分程度の介助時間とな
る。
しかし、実際はさまざまな加算の結果、これほどまで時間が取れないのが現実である。

・重度包括支援
これでは、4時間に対して7000円の報酬単価となっている。国庫負担基準が45万5000円
なので、単純計算すると、月に260時間しかカバーできない。
つまり、1日に8時間程度しかカバーできない。再重度で、当然寝返り、痰の吸引を始め、命に
かかわる介助が常時必要であるにもかかわらず。

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「障害者」は、介護保険の水準では地域で生きていけない、と叫んできたが、それをさらに下回る。
厚労省はホームヘルプ関係については、全国の9割の市町村にはこの基準の負担しか行わない、としている。
厚労省は、激変緩和措置として、より充実した介助制度を実施している他の1割の市町村については、昨年度国庫補助分は出す、としている。しかし、1年先、3年先にはどうなるか判らない。
また、上記の国庫負担基準の金額を合算して市町村に渡し、その配分は市町村に任せるともしている。だから少なくしか介助を利用しない人の分を、多く利用する人にもまわせる、としている。しかし、これは他の人の分を奪うような話しである。

何故、このように介護保険の利用限度額よりも低い国庫負担基準を示したのかを厚労省に質問する
と、次のような応えが返ってくる。「介護保険の利用限度額の場合は、通所などの利用もできるが、支援法の国庫負担基準は、ホームヘルプ系だけについて出したものである。」
介護保険の利用限度額は、もちろんすべてホームヘルプ系の利用に回すこともできる。「障害者」の場合は、昼間は通所系を使い、後をホームヘルプにしろとでも言うのか。ますます画一的な生活を押し付けられるのではないか。
支援費制度のもとでも、ホームヘルプを支給するよりも、通所の方が安上がりなので、そうしてほしい、と役所から言われるケースがあった。

他方、厚労省は、この秋にも、介護保険料徴収年齢を引き下げ、「障害者」を介護保険に組み込むことを狙っている。「障害者」側に先行きの不安をあおり、介護保険組み込み反対の声を押さえ込もうとしているのではないだろうか。
しかし、介護保険に組み込まれたときには、激変緩和措置としての国庫負担金もなくなってしまうことは明らかだ。

●報酬単価の引き下げが介助の危機を招く

厚労省は、介護保険制度、支援費制度において、民間事業所を通じて、ヘルパーが派遣される体制を作った。公務員ヘルパーはその過程でなくされてきた。(世田谷区では、運動の力で維持されている)民営化路線が推進されてきたのだ。
その結果、事業所運営に必要なお金も加わり、「障害者」のホームヘルプ系予算は増えることになった。
しかし、今度報酬単価を引き下げると、事業所やヘルパーの生活が成り立たなくなる状況が起こる。
とりわけ、10月からの制度では、大きく報酬単価が下がる。利用者一人当たり、月に10万円程
度下がる場合も少なくないのではないだろうか。
「障害者」関係の場合、通常の介護保険関係の事業所よりも、安い報酬単価で引き受けている場合が多い。しかも、行政の支給決定だけでは埋まらない時間にもヘルパーを派遣している場合が多い。
それは、通常の時間あたりの単価を、例えば時間当たり2分の1にして、行政の認めた支給決定時間が12時間にもかかわらず、24時間ヘルパー派遣を行うというやり方だ。ここを単価引き下げが直撃する。
また、介護保険事業所は、「障害者」をますます引き受けなくなる。

また、これまで介助を続けてきたヘルパーを失いかねない危機もある。
「知的障害者」、「精神障害者」のほとんど、「身体障害者」の区分1~3までの人は、「身体介護」と「家事援助」を利用する以外には、ホームヘルプ系を利用することができない。しかし、この介助
仕事の類型では、ヘルパーに報酬単価上の格差を作るとしている。「3級ヘルパー」や「見なしヘルパー」(支援費制度以前から介助をしてきた人であり、ヘルパー資格講習を受けていない人)は、「身体介護」で30%、「家事援助」で10%報酬単価を減らすとしている。

他方、市町村が認める形で運営してきた「基準該当事業所」は、都道府県が認めて運営する「指定事業所」に比べ、15%報酬単価が引き下げられるとしている。
介助の内容は、資格制度の講習や試験で向上するのではなく、「障害者」と付き合いながら本来向上させるものである。

この報酬単価引き下げの影響は、施設関係でも深刻であり、大幅な減収になる。そして、職員の待遇の悪化、不安定雇用化が進められることになる。

●尾辻前厚生労働大臣の答弁はうそに
昨年10月26日の衆議院厚生労働委員会で、当時の尾辻大臣は次のように発言。
「障害をお持ちの方で今サービスを受けておられる方、この方々が適切なサービスを受けておられるという、その水準を私どもが下げるということは決して考えておりませんし、また、そんなことも
いたしません。」
上述してきたことからすると、この答弁は法律を通すためのペテンということになる。

[3]グループホームの再編

グループホームを、世話人だけのグループホームと介助職員も配置するケアホームに分けた。
世話人の配置は、これまでの利用者4人に1人ではなく、10人に1人を基準と使用としている。
しかも、1つの建物の中ではなく、地域に散在する利用者をカバーすることが想定されている。
また、最大定員30人のグループホームも認めるとしている。
施設や病院の敷地内に建てることも認めるとしている。(「地域移行形ホーム」、利用期間2年)
これでは、施設とますます変わらないものになっていく。

[4]入所施設

施設では、より軽度とされる人を、グループホームを始めとして別の場所に移していこうとしてい
るので、重度とされる人の割合が多くなる。しかし、夜間の職員配置はこれまでと変わらない。
重度とされる人がもっとも多い基準でも、夜間3人の職員が99人の利用者に対応する状況も想定される。

●虐待について

「支援法」の中で、虐待防止について触れられているが、こうした施設やグループホームの状況のもとでは、ますます虐待や事故が起こることは、明らかではないだろうか。
また、利用料の徴収で金のない「障害者」はますます外出が困難になり、虐待を訴えることもますます難しくなると思う。

●5「地域生活支援事業」

介護保険及び訓練関係事業とかかわりのない事業をここに突っ込んだ。
資料には必須事業と共に、それ以外の多くの事業があることを乗せたが、これらは今年度まではそれぞれが国の補助対象だった。それを統合補助金として、国と都道府県が市町村に渡す形となった。
補助金削減の手段だ。
ここに入れられた事業が不安定化、縮小化されることが懸念される。
必須事業だけを挙げると、
・相談支援・権利擁護に関する事業
・手話通訳者などのコミュニケーション支援
・日常生活用具給付
・移動支援事業
・地域活動支援センター事業

「精神障害者地域生活支援センター」や授産施設の受け皿として、「地域活動支援センター」が位置付けられているが、補助金は大きく削減されることになる。

[6]「自立支援医療」
「自立支援医療」とは、これまでの「精神障害者通院公費負担制度」、「更生医療」、「育成医療」を統合したもの。従来は、課税世帯も含めて適用されていたが、これからは基本的には、非課税世帯のみが対象となる。
課税世帯の一定の層が対象となるには、「重度かつ継続」と認定されて医療を受ける人に限定されるようになる。
「更生医療」(対象は「身体障害者」)、「育成医療」(対象は「身体障害児」)は、これまでの応能負担から「応益」負担に変えられる。またこれまでは体全体を対照にしていたが、「重度かつ継続」の範囲は、「腎臓機能障害」、「小腸機能障害」、「免疫機能障害」に限定された。
育成医療については、一定の経過措置が設けられたが、多くの対象者が対象からはずされた。

精神通院医療の「重度かつ継続」の対象となる範囲は、かなり広げられた。05年夏の時点までは、「統合失調症」、「狭義のそううつ病」、「難治性癲癇」に限定していたが、「障害者」側、特に医療側の反対によって、対象を広げることになった。
しかし、それでもこれまで「精神保健福祉法」32条の対象者であった人の中から、「自立支援医
療」の対象者とされない人が出ており、5%負担から30%負担にさせられている。
しかし、認定機関は、これまでの2年から1年となり、毎年チェックされる。
「再認定を認める場合や拒否する場合の要件については、今後、実証的な研究結果に基づき、制度施行後概ね1年以内に明確にする。」としている。
そして、3年後にはより根本的な見直しをするとしている。

「自立支援医療」の対象となっても、1割負担はさせられる。

これまでの「精神障害者」の通院公費では、医者を自由に選んで受信することができた。しかし、これからは市町村が指定する所に行かなければならない。もちろん、変更する手続きもあるが、これまでのようにはいかなくなる。

また、「支援法」の他制度とことなり「自立支援医療」では、利用料の上限額管理を、管理表を自
分で持ち歩いてチェックしなければならなくなっている。その上で、この方式に対する抗議もあり、
病院側が管理表を預かる方式も取られるようになってきた。

[7]「地域福祉計画」

市町村には数値目標を含む地域福祉計画を作ることが義務付けられる。
そうした中で、厚労省は、2011年度までに社会的入院とされる精神病院入院者7万人の解消を図るとしている。しかし、実際には、グループホームなどに移すにすぎないものとなるだろう。
入所施設の定員も7%削減するに過ぎない。減らした定員の大部分もやはりグループホームやケアホームだろう。
福祉関係からの一般就労を現在の4倍に増やすとしているが、何の根拠もない。作業所に定員を超えて、企業から退職させられた「障害者」を受け入れさせている現実などには全く触れていない。
結局、地域での生活はますます困難にさせて、入所施設、ケアホーム、グループホームと「障害者」を能力別に篩い分けていく方向しか考えられない。

★2わたしたちはどう闘うのか

昨年の「支援法」に反対する国会闘争は、「障害者」運動の歴史上画期的なものであった。また、日本の社会福祉を守ろうとする民衆の戦いという点でも画期的なものであったと言える。
しかし、それはいったん敗北させられた。この総括とこの状況を打破する展望を形成することが「障害者」側にも、そして、労働者をはじめとする民衆に求められているのではないか。
政府・与党の社会保障・福祉の解体、民衆の権利の否定、命の否定、戦争のできる体制づくりは、今年に入ってますます激しいものとなっている。しかしまたそうであるがゆえに、民衆の憤りも激しいものになりつつあると思う。
「支援法」が施行される中で、この悪法に対する危機感と怒りが、これまで「障害者」運動などに
かかわりをもってこなかったような人たち、自民党議員が票田としてきたような人たちを行動させ始
めた。この根底的な闘いを発展させて、「支援法」の撤廃を勝ち取っていきたい。そのためにも、介
護保険の改悪、医療制度改悪に苦しめられる高齢者など福祉切捨てに苦しむあらゆる人々の苦しみをも受け止め、共に闘っていきたい。