2015年7月2日 不戦、非暴力をつらぬくチベット人の心を描くドキュメンタリー映画「ルンタ」

チベット人の焼身抗議の実態を知っていますか?

映画監督の池谷さんがチベットに入り命がけで撮影したドキュメンタリー映画
ダライ・ラマの建築士と言われたチベット在住の中原さんはブログで焼身抗議の実態 身の危険を顧みず発信しています。中原氏と親交のある池谷監督が中原さんの目を通して見たチベットを映画にしました。

公式サイトはこちら

映画のチラシより抜粋
焼身抗議の背景
1946年中華人民共和国を樹立した毛沢東は直ちにチベットに侵攻。2年後、チベットは事実上、中国の支配下に置かれた。1959年、ダライ・ラマがインドに亡命、後を追うように10万人のチベット人がヒマラヤを越えインドやネパールに亡命した。2008年北京オリンピックを目前に控えチベット全土で平和デモが発生すると、中国当局は容赦のない弾圧を加え、ラサだけでも200名を超えるチベット人が命を奪われた(亡命政府発表)。これにより中国政府に対する不信感が高まり、今も増え続ける「焼身抗議」の誘因となった。その他、中国政府の言語教育政策や遊牧民の定住化、天然資源の採掘に伴う環境汚染、チベット人に対する移動の制限なども焼身抗議の背景に挙げられる。

2015.7.2 (東京堂ホール)
ルンタ トークショー
池谷薫さん
渡辺一枝(いちえ)さん (作家)
星泉さん(東京外大教授)

ルンタのプロモーションビデオを見る

池谷
今年146名の焼身抗議での死亡者を出している。日本のメディアは一向にこの報道をしない。
映画作りはテーマがあって始めるわけではない。その場,環境における本当のテーマを探すための映画作りをしている。
チベタン・スマティブというチベット犬を描いたベマ・テェテン監督の「old dog」がすでにチベット人の悲劇を描いている。
別の立ち位置から非暴力の姿勢を貫くチベット人を撮りたいと思った。チベット人の心の底にあるのは「他に害をなさぬこと」

36年前26歳でインドに行き,高山病に罹った。チベットの人が初対面の私を自宅に連れ帰り,家族同様の手厚い看病をしてくれた。
毛沢東時代,チベットに対する弾圧がはじまり,1964年ダライ・ラマがインドに亡命する。チベットを撮りたいと思いながら,26年が流れた。

今回映画の制作ができたのは,ダラミサラ在住の日本人中原一博さんがいたから。中原さんはダライ・ラマの建築家と言われた人。2008年北京オリンピックの時チベットで争乱が起きた。中原さんはチベットに住み続け,ブロガーとして発信を続けていた。
この中原さんの目を通してみたチベットを映画にした。チベット人に私からは政治的な質問は一切しないのだが,彼等からは自然に答えが返ってくる。
チベットの人はすごい。拷問されても,されても,心を折ることがない。自ら非暴力で対峙したことに誇りをもっていて,すがすがしい顔をしている。
チベット人が守ろうとしているもの,identity、文化,ふるさと,そういうものを撮りたかった。チベット人は大らかで,和む。ちょっとエッチなとこもあったりして(笑)。

一枝さん
焼身をとりあげることにはすごく不安と心配があった。映画はチベット人の心から入ったもので,チベット人の慈悲,利他の心をよく捉えている。

星さん
チベット人の信条を吐露した映画。ものごとを大局から捉え,考えている。チベット人の語る力のすごさを感じた。

一枝さん
小さい頃からなぜだかチベットが好きで,あだ名は「チベットちゃん」だった。42歳で初めてチベットツアーに参加したが,お寺周りに興味はなかった。が,チベット人といると妙に楽しかった。50歳を前に,50歳節目の旅行という位置づけて再度チベットに出掛けた。馬に食糧,寝袋を積んでの長旅だった。

星さん
両親が学者で,小さい頃からよくまわりにチベット人がいて,談笑していた。話がとてもうまい。チベット文学を世の中に出そうとしたのはチベット語を読むのがすきだから。

一枝さん
私は私がチベットについて知りたいと思うことを書きたい。チベットのあれこれを知らせるならチベット人が自分たちの今を書けばいい。
チベット人はふるさとに貢献できる人になりたいと思っている。

星さん
「雪を待つ」「ハバ犬を育てる話」がおすすめ。

池谷さん
チベット犬にマスティフという大きな犬がいる。富の象徴のようなところもあり,億単位で取引されたこともあり,利権がからみチベット人の間に亀裂を招いた。

一枝さん
チベット人は殺生しない。魚を食べない。日本人のように しらす などいくつの命が失われるかわからないような小魚は食べない。ヤクは食べる。やく一頭で多くの人がお腹を満たすことができるから。
テントに寝泊まりすると,夜になると蛾が寄ってくる。チベットの人はテントに入った蛾をそれこそ何度でも何度でも何度でも何度でも外に放つ。気が長い,殺生をしない。
例えばこんな話。足の悪い人が働いているところに,別のチベット人がいて,足の悪い人の歩き方を揶揄する。私はなんて失礼な,ひどい、と思ったが,チベットの人は本人に対して,「お前こんな歩き方しているな」という。本人は,「私は足の長さが違うからこういう歩き方をするが,あなたたちにはこういう歩き方できないでしょう」と平然という。皆もそれに納得する。
巡礼の道に魚を売る中国人がいた。小ぶりな魚をチベット人は買う。そしてそれを川に返してやる。するとまた中国人が魚を捕まえてきて売る。私は中国人を恨めしく思ったが,チベットの人は「怒らずに,この中国人の来世を祈ってやろう」という。
巡礼の人に話を聞くと,25歳の姪を供に,行きに3年,帰りに3年もかけて巡礼をするという。チベット人は信仰に生きている。
生きるためにすがる。祈るために生きる。生きとし生ける者の為に祈る。
ルンタ とは,風の馬という意味。天を駆けて神に願いを届ける。祈りの場にはためく旗は,旗めいて世界中に祈りの気持を行き渡らせる。
チベットのゲリラ組織はCIAが1956年頃から支援している。CIAの援助を受け,ゲリラの中には沖縄で訓練を受けた者もいる。
現在日本には150人のチベット難民がいる。主に介護職に携わっている。
チベットの現実を知って欲しい。

渡辺一枝「消され行くチベット」(集英社新書)
「風の馬」(写真集)他

星 泉「ハバ犬を育てる話」東京外語大出版会
「雪を待つ」(勉誠出版)