第6回裁判学習プロジェクト(2015.11.6)

開催日 27年11月6日(金)午後6時~8時
出席者 9名

目次

精神的不調を抱える労働者に対して企業が取るべき対応を示した事例

事案の概要

社内の嫌がらせ調査を求め4月上旬から6月3日まで有休休暇取得。
嫌がらせ行為はないという会社の調査結果に不満で上司に届出を出して欠勤。
6月4日から7月25日まで欠勤
メールによる出社命令
7月31日出社したが、8月25日、9月30日をもって諭旨退職処分命令

原告提訴

正当な理由による欠勤であり、諭旨免職処分は許されない。
一審、原告完全敗訴

控訴審

原告-嫌がらせの事実を主張
被告-精神疾患が原因の被害妄想であると主張
原告の予備的主張
嫌がらせがなく精神疾患による被害妄想なら原告の精神疾患に対する配慮が必要である。
予備的主張を認め、懲戒解雇が無効である旨判決。

上告審

精神的不調による欠勤者には使用者として医師による診断を実施し、求職等の処分を検討する必要があるのに、これを怠った。上告人の休職には理由があり、懲戒解雇は適切ではない。就業規則所定の懲戒事由を欠き無効であると判断。

コメント

精神障害者に対する対応について最高裁が配慮を求め、規範を示したことは精神疾患をかかえる労働者が多い昨今の事情から、高い評価に値する。

福岡視覚障がい者審査請求事件

失明した市職員を分限免職処分にした事件

事案の概要

審査請求人=Aさん、市役所職員

2006年11月糖尿病性網膜症の診断 手術治療の後
2008年2月視覚障害のため休職
2008年7月 身体障害者手帳3級
2009年2月 身体障害者手帳2級
リハビリ、復職のための市役所との協議
2011年1月~2月 6日間かけて検証作業実施
市役所側→復職困難の判断
2011年2月 3年間の休職満了をもって分限免職処分

根拠条文:地方公務員法28条1項2号
心身の故障のため、職務の執行に支障があり、又はこれに堪えない場合に該当

検証作業の内容(市役所の求めに応じて会社の求める作業を行わされた)

  • パソコンによる文書作成
  • 文書製本
  • 資料の検索
  • パンフレットの仕分け

Aさんの主張

検証内容は一般の健常者に求められるものであり、視覚障がい者雇用の為の配慮が何らなされない。人的物的に障害を補いながら障害者の能力に見合う代替業務を検討する必要がある。

市役所の主張

作業ミスが多く、作業時間も長い。地方公共団体は市民の為に能率的、効果的に職務を行う必要がある。

採決の要旨

十分な準備期間を求めず行われた検証結果をもとに判断された本件分限免職所分は不当な処分と評価され、原処分庁の主張には理由がない。

意見

役所は特に職員650人規模で大企業に匹敵する。障害をもってもなお働ける業務はあるはず。どのような配慮をしたら障害をもつ労働者が働き続けられるかをまず検  討してほしい。

阪神バス事件-福合理的配慮を受けながら働く権利

事案の概要

Aさん・・B社入社。1992年入社のバス運転手。

1997年腰椎椎間板ヘルニアにより排便・排尿を自らコントロールできず、会社指定の勤務シフトに対応出来ない。B電鉄の「勤務配慮」制度を利用して勤務した。

B社・・・2009年会社の再編により、バス部門が分社化され、別会社に統合され、「2011年1月から勤務配慮を廃止、通常の勤務シフトで勤務させる」と一方的に通告。

裁判の争点

勤務配慮はB電鉄との合意であったとして、Cバスに引き継がれるか。
勤務配慮の打ち切りは障害者差別に該当するのではないか。

裁判所の判断

勤務時間についての配慮が黙示的に合意されたと認定。
6年に亘り勤務配慮が行われてきたことは労働条件の一つとして取り扱われていると認定。

分社化されるにあたっては「労働契約承継法」が適用される。
労働条件の変更のためには、労使で話し合いによる合意が必要。会社が一方的に不利益変更することはできない。

意見

企業は社会的責任として障害をもつことが解雇原因にならないよう配慮して欲しい。もともと障害者は有期契約がほとんど。一般の人は自分の都合のよい働き方として契約社員を選択することもできるが、障害者は選択権がない。そこを一般の人も派遣切りにあう、と同一視することはできない。

労働契約承継法

会社分割に伴う労働契約の承継等に関する法律(労働契約承継法)は、商法等における会社分割制度の導入に伴い、分割をした会社の権利義務が分割によって承継する会社または新規に設立する会社に包括的に承継されることとなることを踏まえて、労働者保護の観点から、労働契約の承継等についての特例を定めるために制定されました。